前々回の蔵元便りは、並行複発酵の難しさを交えながら仕込み温度の重要性をお話しました。今回も、引き続き温度の重要性について、モロミの品温管理にライトを当てお話していきます。
品温管理をしていく上で、目標としている品温経過にしていくことは非常に大事です。なぜなら、品温経過が目標よりずれた場合、意図している成分、酒質にはならないからです。温度が目標より高いと、米が十分に溶ける前に酵母が増殖し、発酵が短く終わります。逆に、温度が目標より低いと、溶け過ぎたモロミの中で、酵母の増殖が不十分になり、酵母が死滅する状況を招いてしまいます。
酔鯨では、米の品種ごとに目標としている酒質が違い、それに対応した品温経過を設定しています。例えば、特別純米酒の品温経過であれば、モロミ前半の温度上昇を早めにして酵母の増殖を促し、十一日目ぐらいから味や香りを調える為に、少しずつ温度を落としていきます。
以前は、モロミの温度を調節する為に必要な設備がなく、モロミを冷やす為の冷水の出入り調節を人が行なっていました。その為、温度を正確にコントロールするのが難しく、目標の温度に合わせることがとても大変でした。気がつくと温度が下がり過ぎてることもありました。現在では、モロミの温度を24時間モニターしながら、冷水の出入りを自動的に調節し管理をしているので、目標の温度に合わせ易くなりました。さらに純米大吟醸については、冷水の温度までコントロールできる設備を導入し、より細かく温度の調節ができるようになりました。
また、温度計は毎年造りが始まる前に0.1℃刻みで校正を行い、正確な温度を測定できるようにしています。それでも、温度計のセンサーを挿入した位置によっては、温度ムラが生じることもあるので、温度計を挿入する「位置」、「深さ」も統一しています。
外気温によっては、モロミの温度が上がり辛かったり、逆に下がりにくかったりします。特にモロミ前半、まだ米が溶けていない時期の温度コントロールは難しく、温度を調節する為に、電球、保温マットを使用したり、室温の設定を変更したりしています。
もちろん温度だけでなく、刻々と変化するモロミの状況を知ることも大切です。1日5回の検温時にはモロミの泡、香り、音、味なども観察します。五感をフルに働かせ、成分分析、温度などの情報を加味して総合的に判断し、品温管理をしていきます。
7月になり、とても暑くなって来ました。熱中症など体調をくずさないよう気を付けて下さい。お酒の搾りもようやく終わり、今年の酒造りをまとめ、来期の計画を練っているところです。今より、もっと良いお酒を造れるよう今年の酒造りをしっかりと振り返り、皆様へ美味しいお酒を届けていきたいと思います。
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