これまで、「洗米」、「蒸し」、「麹」、「酒母」と工程を追いながら、話を進めてまいりました。今回よりいよいよ仕込みタンク内での醸造の工程についてのお話です。麹造りと酒母造りで造った麹と酵母を活用し、さらに蒸し米、水を加えることでお酒造りが進んでいきます。この最初の工程、原料をタンクに入れる工程を「仕込み」と呼びます。今回はこの仕込み、特に温度管理の重要性についてお話を進めて行きたいと思います。
仕込みを簡単に説明すると「蒸したお米と麹、酒母、水を合わせて、目標温度にする工程」となります。仕込みをスタートとして、タンクの中では米の溶解(糖化)とアルコール発酵(酵母の力)が同時に進行していきます。これを並行複発酵といいます。
他の醸造酒を見ますとワインはブドウの果汁を原料にアルコール発酵を行う為、原料の糖化の必要性はなく工程はシンプルです(単発酵と呼ばれます)。ビールは麦芽を原料に糖化を行ない、得られた麦汁を使用してアルコール発酵を行います(単行複発酵)。どちらも液体となった原料からアルコール発酵を行なうのに対し、清酒は糖化と発酵が同時に進行していきます。ここに清酒造りの難しさがあるといわれています。
どうして難しいのでしょうか。
理由は「温度をコントロールしづらい」これに尽きると思います。仕込み直後は液体(酒母、仕込水)と固体(麹、蒸米)が混ざり合った状態ですが、固体は直ちに液体を吸込んで膨れ上がり、人の力では混ぜることは到底不可能な状態になります。例えるなら、タンクに巨大なおにぎりを入れたような感じです。とても混ざりませんよね。だから仕込み時の温度が適切でないと、取り返しのつかないことになるわけです。麹の力で米が溶けるまでは温度のコントロールがしばらくできないことになります。
「温度が2~3℃違ってもそんなに影響ないんじゃない?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ご自身が風邪で発熱して寝込んでいる時のことを想像してみて下さい。体温が2~3℃違うだけで、大変なことになっていませんか?清酒造りも同じなんです。仕込温度が2~3℃、いや1℃違うだけで米の溶け方、酵母の増殖、アルコール生成のバランスが大きく変ってきます。香りや味の成分生成も違ったものになり、出来上がってくるお酒の味に大きく影響してきます。
せっかく狙い通りの麹、酒母、蒸米ができたとしても、酔鯨の酒ができないことにもなりかねません。具体的なところは企業秘密ですが・・・。
以上、手短ではありますが、今回の蔵元だよりでは「仕込温度の重要性」について「並行複発酵の難しさ」も交えて、お話しをさせて頂きました。
「光の春」といわれる2月も終わり、いよいよ本格的な春到来となりました。おかげ様で、今シーズンは販売も好調なことから増産となり、酒造期間を延長して対応しています。暖かい時期、仕込温度を目標に合わせるための苦労も増えますが、皆さんにおいしいお酒を届けるため、社員一丸となって、気を引き締めて酒造りを終えたいと思っております。
次回は、モロミのお話です。
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