ご承知のとおり、お酒造りにおいて微生物である麹菌と酵母の果たす役割はとても大きいです。前号では、このうち特に「麹菌」についてその果たす役割や当社の造り方をご紹介させて頂きました。
今回は「酵母」についてのお話しです。
酵母はアルコールを生成する、まさにお酒造りには無くてはならない存在です。この酵母を仕込みタンクに入れる前、大量に増殖させる作業が「酒母造り」です。酒母造りは、モロミのタンクと同様に、酒母タンクに蒸し米、麹を仕込み、この中で酵母を増やしていきます。当社の平均的な酒母造りでは、酵母は約30兆個~40兆個まで増えます。
酒母造りを行なう一番の理由は仕込みの初期に雑菌の増殖を抑えることです。清酒造りは開放されたタンク、空間で行うため、種々の雑菌が入りこんでくる可能性があります。下手をすればお酒にならないということもあります。しかし、酒母から大量に酵母を持込んで数の力で圧倒すれば、雑菌が入り込む余地はなくなります。まさに自然の摂理を上手く利用した製造方法です。
酒母には、更にもう2つの汚染防止の仕組みがあります。1つは、乳酸により強酸性の状態にあるということです。酵母は耐酸性が高いのに対し、多くの雑菌は酸に対する抵抗力が弱い為、強酸性の中では生きられず結果、雑菌の増殖は抑えられます。もう1つは、酵母が造り出すアルコールです。酒母には10%前後のアルコールが含まれ、これが雑菌の増殖を抑えます。
お酒造りにはこのような2重、3重のセキュリティがあります。自然を理解し、巧みに取り込んだ先人たちの努力には頭が下がります。
酒母造りは出来上がるお酒の酒質にも大きく影響します。当社では、仕込みにおいてモロミの初期から酵母が盛んに増殖し、醗酵することを目指しています。これは、酔鯨の特徴である「キレのある味わいとスッキリとしたのどごし」を実現するために非常に重視している点です。酵母の活性が高い状態を維持したままモロミを仕込むことで、キレのある酔鯨のお酒が出来上がります。
現在、清酒醸造に適した酵母は様々な機関から提供されています。その中でも当社では食中酒としての味わいを大切にする為、伝統的な吟醸酵母である「熊本酵母」をメインに使用しています。「おだやかな吟醸香」はお料理との相性も良く、また「力強く、酸味があってキレのある味わい」は、和食から洋食まで幅広くマッチングします。
今年も新酒の季節となりました。この時期、当社の近く御畳瀬という地域では、旬のメヒカリの干物づくりがピークを迎えます。15cm程の小振りな魚ですが、軽く火にあぶると、旨味のある、プリプリの白身が弾けとっても美味です。もちろん、これには酔鯨のお酒が良く合います。
前回は麹造り、今回は酒母造りについてご紹介をしてきました。次回はいよいよ仕込みについてのお話の予定です。
PR